2019年12月29日 説教要旨 鈴木亮二氏(信徒)

ヨセフという人

マタイによる福音書 2: 13 – 23

今日の福音書はイエス様がまだ赤ちゃんから幼年期、イエスの父親であるヨセフが物語の中心です。これまで、私はヨセフのことを聖書の中であまり目立った存在ではないように思っていました。こう思っていた理由は、イエス様が宣教を始めるまでにその登場が終わってしまうこと、妻であるマリアと比べると非常に地味な印象を受けること、そして聖書の中に彼が話す言葉が残っていないということです。

ヨセフについての記述は、彼の行動だけです。ベツレヘムからエジプトへ、そしてイスラエルに帰りそのままガリラヤのナザレへと家族を伴って移動します。ヨセフの行動は正に「男は黙って行動あるのみ」という感じがします。ヨセフのとった行動は、ヨセフ自身が思いついてとった行動ではありませんでした。彼はいずれも天使が夢の中に現れて命じたとおりに行動しています。彼は天使のお告げに対して、口答えをすることなくすぐに行動を始めます。

今日の福音書にはもう一人登場人物、当時ユダヤを統治していたヘロデ大王がいます。ヘロデ大王はイドマヤ出身で、ローマ元老院によってユダヤの王として認められ、ユダヤの統治を任された人です。もともと王族ではない地方出身の彼は、ローマに取り入って協調関係を構築し、自分の敵となる者を粛正することによって、王としての地位を維持しました。

ヨセフとヘロデ大王は、対照的な存在です。ヘロデは、自分の地位をおびやかす者が現れるとなりふり構わずそれを摘み取ります。占星術の学者たちによってもたらされたイエス様の誕生に対しても、ベツレヘムの幼な子をすべて殺してしまうという忌まわしい手段をとりました。自分だけしか信じられない、自分のことしか考えられないヘロデは、自分が決めたことは誰が何と言おうと聞く耳を持たなかったと思います。彼の行動には、自分さえ守れれば他人はどうなっても構わないという考えが見えてきます。一方ヨセフは自分だけの考えでは行動をしません。どうすれば良いか悩むとき、彼の心は神様の言葉を聞こうという方向に向きます。彼の行動は、自分だけのためではなくマリア、イエス様を守るというものでした。ヨセフは、自分だけでなく何をすることが一緒にいる人たちにとって一番大切なのかを考えながら行動しました。彼にとって大切だったのは妻であるマリア、そして何よりも救い主となるイエス様だったのです。

イエス様は、私たちを背負い救いへと導くために生まれてくださいました。人間の姿となり、私たちの罪をすべて背負って十字架の業によって贖ってくださいました。赤ちゃんのイエス様はまだ無力です。ヨセフは神様からの声を聞き、まだ赤ちゃんであったイエス様を背負って守るという行動をしたのです。神様が私たちに語りかけてくださる声はとても小さな声です。でも心を神様の方角に向けていれば、その声が聞こえてきます。そして自分だけではなく、もっと大切なもののためにすべきことが見えてきます。